「博士!大変です!!」
助手のAは研究室に慌てて駆け込んだ。
「一体、全体、変態、どうしたというんだね。」
博士はコーヒーをすすりながら落ち着いた様子で、
読んでいたワンピース2巻から顔上げた。
「まだワンピースの2巻読んでるんですか?」
と半ばあきれ顔のA君。
「もう、ワンピースが100巻以上出版されているこのご時世に。」
博士は、最近の若者は好きなマンガを何度も読み返すこともしないのかと、
こちらもまた半ば呆れ気味の様子でマンガを机に置いた。
「で、君の発言である『博士!大変です!!』についてだが、
私が大変なのかね?それとも、私じゃない何かが大変なのかね?」
「すみません。主語が抜けてました。」
「謝罪を受け入れよう。で、何が大変なのだ?」
「向かいのスーパーのコーヒー粉の袋が、
今にも破裂しそうなくらいパンパンなんです!」
「パンパンやで!!」博士はオール巨人氏のモノマネで応える。
「何ですか、それ?」キョトン顔のA君。
「やれやれ。」博士はため息をつき、グラス一杯の水を飲んだ。
「ボイルシャルルの法則じゃよ。」博士は続けて言う。
「冬に梱包したコーヒー袋の空気が気温の上昇により、
体積が膨張したものと考えられる。」
「ウソつくのやめてもらっていいですか。」
助手は薄ら笑みを浮かべて言った。
「スマホでググったら、
コーヒーの粉が炭酸ガスを放出するかららしいっすよ。」
博士はコーヒーを飲み干し、助手はたそがれ、
二人は帰路に着いた。
外ではカラスが鳴いていた。